事実と概念

答案中心にあげています。コメント等頂けるとありがたいです。

2017年度 慶應法科大学院 民法 

(構成20分、答案作成25分)

1 問1について

(1)Xは2016年8月15日に、2016年9月分以降の賃料債権を物上代位権(372、304)の行使により差押えをしている。

しかし、Aはそれ以前の2014年5月20日に、Xが差押えた部分を含む賃料債権をBに譲渡している。よって、Aが先に賃料債権について「払渡し又は引渡し」したといえ、Xは物上代位権を行使しえないのではないか。債権譲渡が「払渡し又は引渡し」に当たるか否かが問題となる

アそもそも、本件債権譲渡は将来集合債権譲渡であるが、有効か

この点、始期と終期が明確になっていれば特定されているので有効と解されるところ、本件はこれを満たす。よって有効

イ債権譲渡は「払渡し又は引渡し」にあたるか

(ア)そもそも、304条が差押えを要求した趣旨は、債務者を二重弁済の危険から守ることにある。とすれば、債権譲渡の時点では債務者はいまだ弁済していないので、かかる趣旨は妥当しない。

ただし、譲受人保護の観点から、債権譲渡よりも前に抵当権の登記がなされていることを要すると解する。かかる登記があれば、賃料債権が物上代位されうることについて譲受人において予測可能になるからである。

(イ)これを本件についてみるに、Bが債権譲渡を受けたのは2014年5月20日で、Xが抵当権を登記したのは2013年7月15日であるから、債権譲渡よりも前に抵当権の登記がなされている。

(ウ)よって、債権譲渡は「払渡し又は引渡し」には当たらない

ウXの物上代位権の行使は有効であり、Xの賃料支払請求は認められる

2問2について

(1)YおよびZはXに対して、9月分の賃料債権は本件相殺合意によりすでに相殺されており、賃料支払請求は認められないと主張する。

たしかに、YおよびZの有する協力金返還債権とAの有する賃料債権はともに弁済期にあり、相殺適状(505条)にある。

しかし、XはXおよびYの賃料債務の弁済期前に差押えをしており物上代位が優先すると反論する、物上代位と相殺の優劣が問題となる。

(2)たしかに、相殺の担保的機能を重視して当事者の相殺の期待を保護する必要性がある。しかし、相殺の合意は登記手段がなく、無限定に相殺が優先するとしてしまうと第三者を害する。

そもそも、抵当権の登記後は物上代位される可能性が公示されるといえる。とすれば、抵当権の登記後の当事者の相殺合意は物上代位の危険を加味したものであるはずだから、相殺の期待を保護する必要がない。そこで、抵当権の登記と相殺合意の先後によって優劣を決する。

(3)これを本件についてみるに、Yは2016年6月20日に相殺合意をしており、Xの登記した2016年7月15日よりも前であるから、相殺が優先する。

Zは2016年7月20日に相殺合意をしているから、Xの登記よりも後なので、抵当権による物上代位が優先する。

(4)以上より、Xの賃料支払請求はYについては認められず、Zについては認められる。

 

 

 

<コメント>

事案がややこしくて時系列を書くのに手間取りました。旧試は時系列を日付で書くような問題がないので、普段問研で旧試ばっかやってると日付でめまいがします。

あと、問一の債権譲渡が払渡し又は引渡しにあたるかの論述は、不正確です。譲受人保護の話は債権譲渡と登記ではなく、債権譲渡の対抗要件具備と登記の先後ですね。対抗要件具備していないと抵当権者に債権譲渡があったことを対抗できないので、保護するかどうかの問題にはならないということなんでしょう。そりゃそうだ。

問2は、若干でっち上げています笑

おそらく協力金=貸金というのがキーになってくるんでしょうけど、50分でそこまで考えられません。時系列把握するので精一杯でした。たぶん敷金の充当の可否とかを応用するんでしょう。