事実と概念

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【再現】慶應法科大学院 2017 民訴

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1.問1

(1)かかる訴えは、800万のうち500万の一部請求棄却後に、残部である300万について請求する訴えである。かかる一部請求棄却後の残部請求は、既判力もしくは信義則によって許されないのではないか。

ア既判力は、訴訟物の存否についておよぶため、一部請求の訴訟物の範囲が問題となる。そして、不意打ち防止の観点から黙示の一部請求の場合には訴訟物は合計額であり、明示の場合には一部が訴訟物であると解する。とすれば、明示の場合には残部請求は既判力によっては遮断されない。

もっとも、一部請求の審理は通常合計額全体についての存否に及ぶため、一部請求について棄却された場合には実質的には全体について不存在と判断されたに等しい。よって、特段の事情ない限り一部請求棄却後の残部請求は信義則により許されないものと解する。

イこれを本件についてみるに、まず、Xの前訴は明示の一部請求であるから既判力によっては遮断されない。そして、請求棄却の判決がなされているため信義則上残部300万の請求は認められないとも思われる。しかし、本件ではXは裁判資料の一部がただちに用意できないというやむを得ない事情のために一部請求をしており、裁判資料がない以上前訴において残部について審理が尽くされたとはいえないため、かかる事情は特段の事情にあたる。よって、信義則によってもYの訴えは遮断されない。

ウ以上より、裁判所は実体判決・実体審理をなすべきである。

2.問2

(1)かかる訴えは将来の給付の訴え(135条)にあたる。そして、本件のようないまだ請求の原因となる法律関係が発生していないような将来の給付の訴えにおいては、①「あらかじめその請求をする必要」のみならず、②請求としての適格性(請求適格)が必要である。

(2)まず、Yがすでに不法占拠をしており、継続するたびに訴えを提起することは訴訟経済や原告の負担から妥当ではない。よって「あらかじめ…必要」が認められる。

(3)では、②請求適格があるか、その判断基準が問題となる。

アこの点、a請求の基礎となる事実関係および法律関係がすでに存在し、その継続が予測されb請求権の内容又は存否について債務者に有利な影響を与える将来における事由があらかじめ明確に予測できる事由に限られ、cかかる事由の発生を請求異議の訴えにおいて証明することによってのみ強制執行を免れることができるという負担を債務者に負わせても格別不当とはいえない場合に請求適格が認められると解する。

イ本件では、Yがすでに土地を不法占拠しており、金属加工という仕事を行っていることからその継続が予測される。(a充足)また、Yに有利な影響を与える事由はYの退去や賃貸借契約の締結といったあらかじめ明確に予測しうる事由に限られる(b充足)さらに、かかる事由の発生の証明は容易であり、Yは自ら不法占拠をしているものであるから自業自得であるため、Yに上記の負担を負わせても格別不当とはいえない(c充足)以上より、請求適格が認められる。

以上より、Xの訴えは適法である。