事実と概念

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【再現】慶應法科大学院 2017 商法

自己評価:B

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Yは競業避止義務につき法令違反しており(35611号、3651項)任務懈怠があるので、4231項の責任を負うのではないか。

(1)Yに任務懈怠があるか

アまず、Yが乙社を設立して大阪市内での販売を開始したことは35611号の「取引」にあたるか

(ア)そもそも、競業避止義務の趣旨は、取締役が会社のノウハウや取引先を利用して事業を行うことを防止することにある。とすれば、「事業の部類に属する取引」とは、会社の取引と目的物・市場・取引先が競合する又は競合しうる取引をいい、「ために」とは計算をいうと解する。

(イ)本件では、甲社は関西での菓子販売製造を検討しており、大阪市内での展開を目指して調査も行っている。とすれば、乙社の大阪市内での菓子販売は甲社の取引と目的物市場取引先が競合しうる取引といえ、「事業の部類に属する取引」といえる。また、Yは乙社の一人株主であるから、乙社の利益はYの利益と同視でき、Yの計算においてかかる取引を行っている。以上より、Yの販売は「取引」にあたる。

イそして、Yは取締役会決議を経ずにかかる取引を行っているので3561項柱書、3651項違反である。なおYは取引後に甲社取締役会の承認を得ているが、承認は事前に要求されているため、かかる承認はYの法令違反を治癒しない。

以上よりYに任務懈怠が認められる。

(2)かかる任務懈怠につきYに少なくとも過失がある。そして、会社の損害は4232項によって1億円と推定される。因果関係も同条により推定される。以上より、かかる推定を覆さない限り、Y4231項の責任を負う。

.問2

(1)本件契約は承認なき競業取引にあたるため、無効ではないか。

アまず、前述のとおり、本件契約は承認なき競業取引(35611号)にあたる。ではその効力はいかに解するべきか

(ア)この点取引安全の観点から、常に無効と解するのは妥当ではない。さらに、相手方が承認の不存在につき悪意有過失であった場合に無効と解しても、相手方が損害を被るだけで会社の救済に繋がらず妥当でない。よって、常に有効であると解する。なお、会社の救済は4231項、2項によって図れる。

(イ)よって、本件契約は有効である。