事実と概念

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【再現】慶應法科大学院 2017 民法

自己評価:C

Yの主張の法的根拠

Yとしては、相殺および差額の支払いの前提として、本件貸付がXに帰属していることを主張する必要がある。

(1)XAに家計の管理等を任せていたことからXに基本代理権が認められ、本件貸付は110条の表見代理としてXに効果帰属する。

(2)日常家事代理権(761条)を基本代理権とした表見代理110)によりXに効果帰属する。

(3)XAに与えた生命保険契約締結の代理権を基本代理権として、110条によりXに効果帰属する。

Yの主張は認められるか

(1)1(1)について

アまず、Aに家計の管理等事実行為を委任していたことが基本代理権の授与にあたるか。事実行為の代理権も基本代理権にあたるかが問題になる。

(ア)この点、基本代理権はあくまでも法律行為についての代理権に限られるのが原則である。ただし、基本代理権は本人の帰責性を基礎づける要件なので、社会的に見て重要な事実行為についての代理権は基本代理権に当たると解する。

(イ)本件では、XAに家計の管理一切や、銀行預金の出し入れ、預金通帳や印鑑の保管を任せており、これらの事実行為は通常本人でなければすることのできないような社会的に重要な事実行為である。よって、Aに基本代理権が認められる。

イでは、Yに「正当な理由」が認められるか。「正当な理由」とは、代理権の不存在につき善意無過失であることをいうと解する。

本件において、たしかにAは真正な保険証券やXの印鑑付きの委任状を提示しており、正当な理由が認められるとも思われる。しかし、AXの妻であるところ、夫婦間では印鑑や証券を勝手に持ち出すことも容易であるからこれらの提示のみで「正当な理由」を認めることはできない。そして、YXに対して電話等により代理権授与について確認することは容易であったのに確認義務を果たしておらず、YにはAの代理権踰越につき過失がある。以上より、Yに「正当な理由」は認められない。よって1(1)の主張は認められない。

(2)1(2)について

761条を根拠に代理権が認められるか

(ア)夫婦生活の便宜の観点から、761条を根拠に日常家事に関する法律行為についての代理権が夫婦間で認められるべきと解する。そして、行為が日常家事の範囲か否かについては行為者の主観のみならず、行為の性質などを客観的に見て判断すべきと解する。

(イ)本件では、A200万円という多額の借受をしており、客観的に見て日常家事の範囲に属する行為ということはできない。よって761条を根拠としてAに代理権を認めることはできない。

イもっとも、日常家事代理権を基本代理権として、表見代理110)が成立しないか。

 (ア)夫婦別産制(762条)の趣旨を没却しないために、日常家事代理権を基本代理権とすることはできないと解する。ただし、当該行為が当該夫婦にとって日常家事の範囲に属する行為であると信頼することに正当の理由がある場合には110条の趣旨を類推して、Xに効果帰属させることができると解する。

(イ)本件では、かかる正当の理由は認められない。よって1(2)の主張は認められない。

(3)1(3)について

たしかに、Aは生命保険契約締結の代理権を授与されており、基本代理権を有する。しかし、前述のようにYには「正当の理由」が認められないため、かかる主張も認められない。